CLIENT STORIES

トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室

ビーカインド・ラボは
トヨタ自動車の「変革」を支える
「DIG」メンバーの育成を支援

ビーカインド・ラボは、プロダクト開発の実践を通じて、自ら考え、作り、改善し続けられる人財と組織づくりを支えている。

取材・執筆:加山恵美

インタビューに登場するデジタル変革推進室の5人:上段左から松原 佑樹 氏、中村 拓也 氏、庄子 優太 氏、下段左から川地 佑也 氏、沼田 晋作 氏

デジタル変革推進室(上段左から)プロダクトマネージャー 松原 佑樹 氏 / プロダクトデザイナー 中村 拓也 氏 / デベロッパー 庄子 優太 氏(下段左から)ゾーン長 川地 佑也 氏 / グループ長 沼田 晋作 氏

トヨタ自動車は2021年10月に顧客や従業員が使うソフトウェアを内製でアジャイル開発する全社施策として「Digital Innovation Garage(以下、DIG:ディグ)」を立ち上げた。トヨタ各部門や関連会社から、強い意欲を持ち、プログラミング基礎の受講結果が優良で、異動が承認されたメンバーが結集し、2026年現在、20チーム約200名(1チーム基本8名)が実践を通じて学びながら、内製で高度なデジタルソリューションの開発に取り組んでいる。DIGは複数のパートナー企業とともに人財育成を進めており、ビーカインド・ラボもその1社だ。ビーカインド・ラボが担うのは、メンバーが実際のソフトウェア開発に専任で取り組むチームへの伴走支援である。この取り組みの狙いを伺った。

第一部

ORGANIZATION

チームの隣で、自走を支える

デジタル変革推進室 ゾーン長

川地 佑也 氏

デジタル変革推進室 グループ長

沼田 晋作 氏

窓辺で話す、デジタル変革推進室の川地 佑也 氏

デジタル変革推進室 ゾーン長 川地 佑也 氏

DIG の人財育成で、ビーカインド・ラボが担う役割

DIGはシステム開発している事業者と同じやり方のプロダクト開発を通じた人財育成を実施している。開発経験を積んだメンバーが、あとから加わるメンバーに知識やノウハウを継承しながら連綿と育成が続く仕組みだ。ビーカインド・ラボは開発チームの一員として入り、メンバーの自走を支える。

DIGの建て付け

ビーカインド・ラボが伴走するのは、ステップ2「プロレベルの専任アジャイル開発」(図:トヨタ自動車デジタル変革推進室)

DIG カレッジ

ステップ1

オリエンテーション(1時間)
→ プログラミング入門(3時間)
→ 基礎(3時間×20日)

狙い

・ソフトウェアを専任で開発する素養ある人財の発掘

・各部署で市民開発者として活躍する人財の育成

ブートキャンプ(8時間×60日)

狙い

ソフトウェア開発者の「プロの卵」を育成

外注〜外注レベル以上の卵

DIG ソフトウェア開発

この先ずっと継続(拡大)

狙い

次の百年も産業報国

圧倒的なお客様体験/従業員体験の提供

ステップ2

プロレベルの専任アジャイル開発

先輩が後輩を育成しながら、3つのポジション(PM/PD/エンジニア)のバランスチームで、お客様向け/従業員向けのソフトウェアを専任でアジャイル開発

ステップ3

デジタライゼーションへの挑戦

プロに外注しても成し得ない、DIG(内製リスキリングメンバー)だからこそ成せる高度なデジタルソリューション開発による大変革

強いチームを再現可能に作る

ビーカインド・ラボは、「強いチームを再現可能に作る」ことを目指してプロダクト開発に伴走する。プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、デベロッパーがひとつのチームとして動く「Balanced Team」をチームの形とし、リーンスタートアップ、ユーザー中心設計、XPの3つを軸とした「リーンXP」でプロダクトを開発する。その実践を通じて、チームが自分たちで育っていくのを支える。

チームの一員として入り込み、自ら成長できるように導く

伴走するコンサルタントは、指導する立場ではなく、チームのメンバーとして入り込み、プロダクトの開発状況を踏まえて一緒に考える。そのうえでチームメンバーが自ら成長できる様に導く形をとる。その根底にあるのが、ビーカインド・ラボが掲げる「Always Be Kind」、常に優しさを持って人に接するという考え方だ。デジタル変革推進室でゾーン長を務める川地氏は、この価値観をこう受け止めている。

川地氏「リーンXPでもほかの手法でも、根っこにあるのは人と人とのコミュニケーションを大切にすること、相手の言葉にしっかり耳を傾けることだと思います。その土台の価値観が、私たちと同じ方向を向いていました」

同じくグループ長を務める沼田氏はビーカインド・ラボについてこう話す。

沼田氏「ビーカインド・ラボの皆さんは長くアジャイル開発に携わってきたので、考え方や行動が骨の髄まで染みついています。開発の実情を踏まえて『こういう考え方はどうだろう』と、同じチームのメンバーとして横に立ってくれます。議論では、まず『Fit to Standard』、つまりアジャイル開発のあるべき姿に合わせることを第一にします。そのうえで、担当にとって現実的に厳しいことがあれば、どう適応するかを一緒に考えています」

自ら動き出すメンバーと、その先に描く未来

人を育てるには時間が必要だ。いずれメンバーがソフトウェア開発で自走できる状態を目指して、ビーカインド・ラボがチームに伴走する形を続けている。

継続して学んできた成果は、担当者の行動として表れはじめている。沼田氏によれば、2週間に一度の報告様式について「仮説検証でユーザー価値を届けるうえでは、このフォーマットだとぶれてしまう」と見直しを提案したり、うまく回っていないチームへの組織的な対応を求めたりする声が、担当から上がるようになった。以前はビーカインド・ラボに頼っていた気づきが、メンバー自身から出てくるようになったのだ。

インタビューに答える、デジタル変革推進室 グループ長の沼田 晋作 氏

デジタル変革推進室 グループ長 沼田 晋作 氏

沼田氏「自分やチームのやり方を省みて、それを周囲に相談し、巻き込み、改善するのは勇気のいることです。そういうメンバーが出てきているのは、大きな変化だと思っています」

AI駆動開発が広がり、開発のあり方が変わりつつある中でも、目指す人財像は変わらないと川地氏は言う。自分の頭で考えて自分で行動すること、そして変化の激しい時代に、うまくいかなくてもすぐに諦めず、しなやかに対応できることだ。

川地氏「私たちは『自考自走レジリエント人財』と呼んでいます。AIの時代においても、こうした人財を育てることがなくなることはないと考えています」

その視線は、トヨタ自動車一社にとどまらない。自動車産業だけでなく、さまざまな産業と連携し、支え合いながら進めていきたいという。

川地氏「私たちは、トヨタ自動車を通じて、日本の明るい未来を作るために取り組んでいます。この思いに共感いただける企業の皆さんと、ぜひ対話を重ねていきたいですね」

ビーカインド・ラボは、この思いを共有するチームの一員として、これからも自走できる人財の育成を支えていく。

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第二部

FRONTLINE

委託開発から内製開発へ、自分たちの手で作る

プロダクトマネージャー

松原 佑樹 氏

プロダクトデザイナー

中村 拓也 氏

デベロッパー

庄子 優太 氏

自分たちの課題は、自分たちで解決したい

DIGの開発チームではどのような学びがあり、メンバーの考え方や行動はどのように変わったのだろうか。プロダクトマネージャー(PM)の松原氏、プロダクトデザイナー(PD)の中村氏、デベロッパー(Dev)の庄子氏の3人にお伺いした。松原氏と庄子氏は2022年4月、中村氏は同年10月からDIGに参加している。3人とも開発チームでビーカインド・ラボの伴走を受けてきた。

3人とも、もとは別の部署でものづくりを経験してきた。松原氏は上司から声をかけられたことがきっかけで、送り出してくれた元の部署に貢献できるものを作りたいという思いがあったという。庄子氏は、先にDIGへ参加した後輩の存在に背中を押された。車両開発に携わっていた中村氏は、手を挙げた理由をこう語る。

中村氏「以前は、困りごとがあっても自分たちで手を動かすより、外部のパートナー企業様に委託して開発してもらうのがメインでした。そうではなく、自分たちの課題に自分たちで解決策を示して、実装して、維持・保守・運用まで自分たちで責任を持つ。そこに魅力を感じました」

DIGの開発チームは約8名。毎朝のスタンドアップで情報を共有し、週に一度のイテレーション計画で作るものを確認し、金曜の最後に振り返りを行う。月曜に始まり金曜に閉じる1週間のサイクルを、どのチームも共通で回している。ビーカインド・ラボの伴走期間中は、伴走メンバーもチームに加わり、就業時間中はほぼ常に議論を交わしながら開発を進める。

方向性を見直すのは、前進を続けるための大切な決断

リーンXPで開発を始めた当初、3人はそれぞれに戸惑いを経験した。中村氏が挙げるのは、ものづくりの会社として根づいていた価値観だ。車両開発は数年単位の期間をかけて着実に計画を遂行していく流れになっているため、途中で計画が変わることはよしとされなかった。松原氏も、同様の点を学びとして挙げる。

松原氏「プロダクトの方向性を見直すことは失敗ではなく、開発を前に進めるための大切な仕事であり、決断なのだと教わりました」

デベロッパーの庄子氏にとって驚きだったのは、ペアプログラミングだ。時には複数のモニターに作業状態を表示して、複数人でモブプログラミングを実施することもあるという。

庄子氏「以前は一人で黙々と作業して、最後にみんなで共有していました。二人で一緒にやると進む量が半分になるのではと思いましたが、長期的には、教育も兼ねられて、共有しながら進められます。やっていくうちに、良さを実感するようになりました」

計画を立て、資料を作り込んで報告するのではなく、早く動くものを作り、それを見せながら関係者の納得を得る。いまだに社内の他部署から資料や計画を求められる場面はあるため、必要に応じて最低限の資料を用意しつつも、動くものを見せて進めるアプローチは少しずつ周囲に受けいれられてきているという。

プロダクトの方向性を見直すことは失敗ではなく、開発を前に進めるための大切な仕事であり、決断なのだ

プロダクトマネージャー 松原 佑樹 氏

成長に合わせて変わる伴走

こうした転換を支えてきたものの1つが、ビーカインド・ラボの伴走だ。中村氏はこれまで、異なるチームで3回の伴走を受けてきた。最初はデザインの楽しさから、次はデザイナーとして、ユーザーやステークホルダーとの関わり方を、3回目は組織をどうマネジメントするかを、そのときの役割や成長に合わせて支えてもらったという。

中村氏「最初は、まだ素人だった私に合わせて、デザインの楽しさから教えていただきました。車のデザインは制約が多い世界ですが、サービスのデザインは、人間のことを考えること自体が楽しいのだと。どのフェーズでも、どんな役割でも伴走していただけたのがありがたいです」

伴走ではプロダクトの状況、伴走相手の状況に応じて多様な視点を提示している。中村氏がステークホルダーとの向き合い方として教わったのは、相手を対等な存在として捉える姿勢だ。ソフトウェアの知識は自分たちのほうが多くても、相手が下にいるわけではない。教えを請うつもりで、真剣に対話する。それも「しなさい」ではなく、「そういう考えもあるよ」というひとつの考え方として示されたという。

デザインについても、決められた流れに従って進めるのではなく、必要に応じて前の段階に戻りながら臨機応変に考える進め方だと学んだ。

松原氏が印象に残っているのは、千人規模のユーザーから寄せられる多様な要望をどう整理するか悩んでいたときのことだ。

身振りを交えて話す、プロダクトマネージャーの松原 佑樹 氏

プロダクトマネージャー 松原 佑樹 氏

松原氏「パネル分析やコホート分析といった分析手法を、なぜその分析をするのかという考え方から一緒に考えていただきました。名前は聞いたことがあっても、どこで使えばいいのか分からなかったものが、実践を通して学べました」

庄子氏は、デベロッパーとしての学びとして、テストの重要性を挙げる。テストは品質を守るだけでなく、仕様書として、あとから加わるメンバーにも意図を伝える役割を果たす。

庄子氏「まずやってみて、うまくいかなければ別の方法を考えればよいという姿勢も、行動で示してもらいました。小さく良くすることを繰り返すというXPの原則を、身をもって見せてくれました」

伴走期間中は、週に一度、伴走メンバーと1on1でお互いにフィードバックし合う「フィードバックセッション」も設けられている。メンバーの成長を考え、言い方に配慮しながらも率直に伝える。中村氏は「優しさを伴う率直なフィードバック」と言う。フィードバックは伝えて終わりにせず、次にとる行動として具体的に決める。毎週の振り返りで出た気づきも同じように行動に変え、次の週の進め方に活かしている。

職種を超えて、ひとつのチームで作る

リーンXPは、コードの書き方だけの手法ではない。何を作るかを決めるPM、使う人の体験を設計するPD、動くものとして形にするDevが、Balanced Teamとしてひとつのチームとなり仕事を受け渡すのではなく、同じ場で議論し、動くものを一緒に見ながら方向を確かめていく。DIGの開発チームでも、ビーカインド・ラボの伴走のもとで、この進め方を日々の開発の中で実践している。

庄子氏「ペアやモブでコードを書くと、知識や判断の理由がチーム全体に共有されて、特定の誰かだけが知っている状態になりにくいです。それはPMやPDとも同じで、同じ場で話しながら進めるので、何を作るのか、誰のどんな課題を解くのかを、全員が同じ理解で作れます」

笑顔で話す、デベロッパーの庄子 優太 氏

デベロッパー 庄子 優太 氏

学びを通じて実感する、それぞれの成長

DIGにおける学びを通じて、メンバーは着実に成長している。それぞれが得たものとして、松原氏は決断する力、中村氏は成果を見る視点、庄子氏はコードを書くことにとどまらず、チームでプロダクト全体を見る視点などを挙げる。

松原氏「最初のころはPMとして決めなければならないことが多いのに、自信がなくて決められないときもありました。いまは決めて進み、うまくいかなければ方向性を変えればよいと、迷わず判断できるようになりました」

中村氏「以前は、自分が何を作ったかに重きを置いていました。いまは、作ったものでユーザーがどうなったのか、仕事がどう変わったのかに着目できるようになりました」

庄子氏「以前はコードを書くことが中心でしたが、いまは、どうすれば動くものを作れるのか、継続して動かせるのか、早く届けられるのかを考えるようになりました。プロダクトを生き物のように捉えられるようになりました」

学びを次のメンバーへ受け継ぐ仕組みも整いつつある。日々の議論やコード、意思決定といった開発の「コンテキスト」をGitHubのリポジトリやNotionに残し、新たに加わったメンバーがAIに問いかけて経緯をたどれるようにしている。ただし、なぜその機能を作ろうと考えたのかといった繊細な背景やニュアンスは、いまも人に聞くほうが早いこともある。記録とAIで土台を支えつつ、人と人との対話で引き継いでいく。

インタビューに答える、プロダクトデザイナーの中村 拓也 氏

プロダクトデザイナー 中村 拓也 氏

これまでの経験を土台に、次の価値へ

これから取り組みたいことを尋ねた。松原氏は社内向けに開発してきたツールを、より広く社外の人にも使ってもらえるようにと検討とブラッシュアップを進めている。中村氏が取り組むのは、AI駆動開発の全社展開だ。開発期間の短縮や顧客満足度の向上を目指している。庄子氏は現在携わっているプロダクトでさらに価値を出すことと、人事や勤怠のようなシステムで従業員体験の向上も思い描いている。

最後に、同じように内製開発に挑む人たちへのメッセージを聞いた。

庄子氏「XPやリーンの価値観を教えてもらってから、仕事の見え方が変わりました。迷ったときに立ち返って判断できる軸を学んでおくといいと思います。中でも改善の原則は響きました。トヨタの考え方とも共通しています」

中村氏「私は車両開発をしてきました。ソフトウェア開発とは畑違いに見えますが、実はつながっていたと感じています。事実を確かめて改善するアプローチや、仮説を立てて検証する考え方が活かせています。新しいことに挑戦するとき、ゼロからのスタートだと考えなくていいと思います」

松原氏「計画や市場調査も大事ですが、『こういうサービスがあったら使いますか』と聞いて使うと言われても、実際に出してみたら使われないことは多々あります。動くものを見てもらうのが一番よく分かります。まず作って、繰り返し検証してリスクを下げる。そういうマインドが広まれば、もっといいサービスが増えると思います」

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